松山地方裁判所 昭和44年(行ウ)17号 判決 1976年2月23日
松山市一番町一丁目五番一八号
原告
宮本聳
右訴訟代理人弁護士
三好泰祐
同
相良勝美
同
阿佐美信義
同
土田嘉平
同
高野孝治
松山市西堀端一三番二二号
被告
松山税務署長山崎三鶴
高松市天神前二番一〇号
被告
高松国税局長 本多行也
右両名指定代理人
岸本隆男
同
熊敏彦
同
岩部承志
同
西岡清文
同
徳永孝雄
同
加地淳二
同
安西光男
同
西原忠信
主文
1 原告の各請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告松山税務署長が、原告に対し、昭和四二年一〇月一三日付でした原告の昭和四一年分総所得金額を九一万六、九〇〇円とする更正処分のうち、二四万三、八五〇円を超える部分及び同日付でした過少申告加算税三、六〇〇円の賦課決定処分はいずれもこれを取消す。
2 被告高松国税局長が、昭和四四年七月二六日付でした原告の審査請求を棄却する裁決はこれを取消す。
3 訴訟費用は被告両名の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
(被告松山税務署長)
1 原告の請求のうち、被告松山税務署長に対する部分を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
(被告高松国税局長)
1 原告の請求のうち、被告高松国税局長に対する部分を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 原告の請求原因
1(一) 原告は、質商を業として営んでいるものであるが、昭和四二年三月一五日ころ被告松山税務署長(以下被告税務署長という)に対し、白色申告書により昭和四一年分の所得金額を二四万三、八五〇円と確定申告したところ、同被告は、右申告に対して、同年一〇月一三日付をもって請求の趣旨1記載のとおりの更正処分及び賦課決定処分をなし、そのころ原告に通知した。
(二) そこで、原告は、右本件更正処分及び賦課決定処分を不服として異議の申立をしたが、棄却されたので、さらに、昭和四三年一〇月一六日に被告高松国税局長(以下被告国税局長という)に対し審査請求をしたところ、同被告は、昭和四四年七月二六日付をもって請求の趣旨2記載のとおりの裁決をし、そのころ原告に通知した。
2(一) 原告の本係争年分の総所得金額は右確定申告のとおりであって、被告税務署長の本件更正処分は、原告の所得を過大に認定した違法がある。
(二) 被告国税局長は、原告が本件更正処分後の同被告の調査に応じなかったとの理由で原告の審査請求を棄却したが、右本件棄却処分は、被告税務署長がした本件更正処分について、その段階においてこれが裏づけとなる資料があったかどうかという正当性の判断を加えなかった違法がある。
3 よって、原告は請求の趣旨記載のとおりの裁判を求める。
二 原告の請求原因に対する被告らの答弁
1 請求原因1の事実は認める。
2 請求原因2のうち「被告税務署長の本件更正処分は原告の所得を過大に認定した」との点は否認し、その余は争う。
三 原告の請求原因に対する被告らの主張
(被告税務署長)-「本件更正処分及び賦課決定処分が違法であるとの原告の主張に対して」
1 売上金額について
(一) 利息収入金額
「質屋営業法第三六条」並びに「出資の受入、預り金及ひ金利等の取締等に関する法律」によれば、質屋営業の場合貸付金額につき一期(月の初日から末日までの期間)九%の利率による利息を超えることができない旨定め、そこで被告において、質物台張(甲第一、二号証)による貸付金額(同号証記載の質物番号一から三〇四九まで)及び貸付期間を基礎として、右九%の利率により利息額を算出すると、原告が本係争年中に法律上受領し得る利息額は少なくとも九八万九、六七八円となる。
仮りに、右金額と原告主張額九三万四、七一八円との差額五万四、九六〇円が値引等によるものであるとすれば、原告主張にかかる右金額を利息収入金額として主張する。
(二) 流質物の売上金額(推計にもとづく)
一般に流質物の売上金額は、流質物にかかる貸付金額に当該貸付にかかる期間(流質期間三ケ月)の利息相当額を加算した額を上まわるはずであり、仮りにそうでないとしても、少なくとも右貸付金額相当部分(元本)は特段の事情のないかぎり確実に回収されることが容易に推測されるものであるところ、原告提出にかかる質物販売及び利子受入明細表(甲第三号証)にもとずき、その流質物の売上にかかる損益の状況を検討してみると明らかなように、原告においては、流質物総件数八九八件のうち貸付額を上まわって販売されたものはわずか六%(五二件)で、その販売利益の合計は一万二、七八五円〔=5万4,200円(販売金額)-4万1,415円(販売原価・貸付額)〕にすぎず、さらに貸付額と同額で販売されたものが八〇件であるのに対し、貸付額を下まわる額で販売されたものは流質総件数の八五%(七六六件)にも達し、しかも流質総件数にかかる貸付金総額二〇一万九、三三五円に対し、流質物売上金総額は一四二万五、八二〇円にすぎないもので、そのような事情は、質屋営業が利息収入益のほか流質物の販売利益により維持されている事情からして、極めて不自然であることが認められる。
そこで、被告の係官は原告に対し、流質物の売上金額の計算の基礎となる関係書類の提示を求めたところ、質物台帳のみを呈示し他の書類についてはこれに応じなかったので、被告税務署長はやむなく、原告主張にかかる流質物販売原価(貸付金総額)二〇一万九、三三五円をもとに、同人の本係争年中における流質物売上金額を推計することとし、営業内容がほぼ類似する同業者の流質物売上金額に対する差益金額の割合(差益率)一九・六六%をここに適用して算出し、原告の流質物売上金額を二五一万三、四八六円とした。201万9,335円(流質物の販売原価・貸付金総額)÷(1-0.1966)(差益率)=251万3,486円(売上金額)
2 経費について
(一) 一般経費(公租公課を含む)
原告主張にかかる二万一、一九〇円を相当と認める。
(二) 特別経費
(1) 支払利子
原告主張にかかる一万〇、七二〇円を相当と認める。
(2) 建物減価償却費
建物減価償却費の計算の基礎となる建物の取得額及び取得年月日がいずれも不明であるので、固定資産税評価額一九万七、五〇〇円を基礎に建物減価償却費を算出し、一、四九三円とした。
〔19万7,500円(建物の減価償却費計算の基礎となる金額)-1万9,750円(残存価格)〕×0.042(耐用年数24年の定額法による償却率)×0.2(店舗割合)=1,493円(減価償却額)
(3) ぞう品没収分
本係争年中にぞう品没収がある(質物台帳記載質物番号二二七六)ので、これに対する貸付額一万五、〇〇〇円を損金として認める。
3 所得控除について
別表二被告更正額欄記載のとおり、社会保険料控除・配偶者控除・扶養控除及び基礎控除は、原告主張額をそのまま認めるが、医療費控除については、原告の本係争年分の確定申告書によると、医療費の金額は一万九、一八〇円(「支払医療費二万一、一八〇円」から「保険などで補填される金額二、〇〇〇円」を除いたもの)であるから、原告の所得金額九一万六、九〇〇円の5/100に相当する四万五、八四五円を超える金額とはならないので、当該控除はない(昭和四二年法律第一四号による改正前の所得税法第七三条参照)。
4 まとめ
以上のとおり、原告の本係争年分の所得金額は、別表一被告主張額欄記載のとおり一四三万五、四二六円となるから、その範囲内でなされた本件更正処分は適法であり、また、過少申告加算税は、本件更正処分によって増加する税額が別表二被告更正額欄記載のとおり七万二、二〇〇円となるから、その金額に百分の五を乗じて得た三、六〇〇円となる(国税通則法第六五条第一項参照)。
よって、本件更正処分及び賦課決定処分はいずれも適法である。
(被告国税局長)-「本件裁決が違法であるとの原告の主張に対して」
被告国税局長は、原告の審査請求に対し、高松国税局協議官に審理の処理にあたらせ、同協議官が、昭和四四年五月七日と九日の二回に亘り原告方の店舗に赴き、原告に対し質物台帳をはじめ営業に関する帳簿類の提示を求めたが、同人はこれに応じなかったので、やむなく原処分の所得計算を基礎に審理をしたところ、原告の審査請求には理由がないと認められたので、被告国税局長は、右協議官の議決にもとずき原告の審査請求を棄却する裁決をしたもので、何ら違法はない。
四 被告らの主張に対する原告の答弁
原告の売上金額・販売原価(貸付金総額)・差益金額及び経費等は別表一原告主張額欄記載のとおりであり、また、控除項目における控除額は別表二原告主張額欄記載のとおりであって、右金額と異なる主張はすべて争う。
五 被告らの主張に対する原告の反論
1 (推計課税の違法並びに流質物の売上金額について)
原告は、被告税務署長の係官に対し質物台帳の呈示をしたもので、右質物台帳の作成は質屋営業法第一四条・第一五条・第三二条により厳格な様式と規則並びに罰則が法定されているものであって、その台帳の記載は、右事情からすれば他の営業台帳と異なり極めて信用性の高いもので、右記載を基礎にして損益の計算をなすことが十分可能であるのにかかわらず、それを無視して一方的に推計課税をなしたことは違法というべきである。
ところで、右台帳にもとずき原告が自主的に計算をすると流質物売上金総額は一四二万五、八二〇円である。
2 (流質物の販売価格が原価「流質物に対する貸付金額」以下となったことについて)
流質物は、松山市内で月三回質屋営業者と古物商との間で開かれる「市」で、或いは店頭での古物商との直接取引で売却されていくのであるが、(イ)質受けを信頼して割高に貸付ける場合、(ロ)衣類とか電気製品では流行が変わるために貸付額より割安でしか処分できない場合、(ハ)傷物や古物であるために処分自体が困難となり一山幾らとしか処分出来ない場合、(ニ)流質期間が長期となり、保存ができなくなることから割安で処分せざるを得なくなる場合、(ホ)盗品であることが判明し捜査機関へ任意提出をする場合、(ヘ)本来故障品であるのに機能品として騙される場合、(ト)宝石・着物・背広などにつき、模造品を本物として騙される場合などのために、販売原価以下での売却を避けられぬこととなる(なお、右各事例は別表三のとおりである)。
六 原告の反論に対する被告らの再主張
1 原告の反論1に対して
質物台帳の様式は、質屋営業法施行規則第一七条により法定されているが、右台帳は、その法目的の適正な執行を期する必要から記載されるべき事項が定められているにすぎず、所得金額を算出するに必要な事項は必ずしも記載されていないのであって、そのことは、右台帳の様式、記載されるべき内容を見ても明らかなように、所得金額を実額で算出するのに不可欠の、具体的な利息収入額・流質物売上額(流質物の処分額)及び一般経費の額までも記載されていないことが明らかであり、右台帳のみによっては所得金額の計算が到底不可能である。
2 原告の反論2に対して
原告は、流質物販売の損失要因として(イ)ないし(ト)の事由を主張し、その各事例を掲げるが、(イ)については信用で多額に貸付けたかどうか貸付金額からは判らないし、(ロ)については質契約日から処分時までの期間はせいぜい四ケ月ないし六ケ月であって、この程度の期間内に貸付金額以下(貸付金額の平均六七%以下)でしか販売できなかったとは思えないし、(ハ)については原告の主張する撮影機・オートバイ等についてこのような処分がなされたとは思えないが、仮りにそうだとすると、原告の主張上、流質品目ごとに売上金額が掲記されている理由が判らないし、(ニ)については盆栽以外の質物は保存ができないといった性質のものではなく、(ホ)については被告においてぞう品没収分としてすでに認めており、(ヘ)については通常質契約の当初に、故障の有無を点検し、もし故障しておれば故障品相当の貸付しかせず、(ト)については模造品として危険性のある品目(貴金属類)についてはかなり吟味して貸付がされるであろうから騙される場合は比較的少ないはずであり、仮りに、原告主張にかかる(イ)ないし(ト)のような損失要因が一時点に存在するとしても、通常質屋営業においては質物が流れる危険性は極めて高いから、金銭貸付の際にかかる質物が流れても少なくとも貸付金額は確実に回収し得るといった判断のもとに貸付がなされるであろうことは容易に推測される。
第三証拠関係
一、原告
1 甲第一ないし第三号証、第四号証の一ないし五、第五号証の一ないし五、第六号証
2 証人新居田康弘、原告本人
3 乙第一号証、第八ないし第一〇号証の成立を認める、その余の乙号各証の成立は知らない。
二、被告両者
1 乙第一ないし第一二号証
2 証人大倉武則、同小網利雄、同月原宗俊
3 甲第一ないし第三号証の成立を認める、その余の甲号各証の成立は知らない。
理由
一、本件更正処分等の経緯
請求原因1記載の事実は当事者間に争いがない。
二、本件更正処分の適否(原告の昭和四一年度の所得金額)
(一) 売上金額
1 利息収入金額
原告が、昭和四一年中に(以下同様)貸付金額に対する利息として、少なくとも九三万四、七一八円の収入を得たことは当事者間に争いがない。
2 流質物の売上金額
(推計方法によることの適否)
被告税務署長が、原告の流質物の売上金額を算定するについて、推計による方法を用いたことは同被告の自認するところである。
成立に争いない甲第一、二号証、並びに証人大倉武則の証言によると、(イ)被告税務署長は、原告の昭和四一年度の確定申告を検討した結果、同業者のそれに比して著しく低いことが判明したので、係官大倉武則らに原告の所得金額の調査を命じたこと、(ロ)大倉武則は、昭和四二年八月初旬ころ、他一名の係官とともに、右調査のため原告宅に赴き、同人に面接のうえ関係書類の提示を求めたところ、原告は質物台帳(甲第一、二号証)だけを見せ、原始書類等他の関係書類は保存していないとの理由で提出に応じなかったこと、(ハ)右係官らは、やむなく、その場で右質物台帳の記載内容を検討したが、そこには流質物の処分に関し、後に本訴過程中に証拠として提出された甲第一、二号証にあるような処分欄中の処分価格の記載はなく、従って、流質物の売上金額については、これを証する資料を得ることができなかったこと、以上の事実を認めることができる。
右(ハ)の点に関し、原告は、当時すでに処分済みの流質物については、質物台帳の処分欄にその処分価格等を記載していた旨の右認定に反する趣旨の供述をし、甲第一、二号証の同欄にはこれに副う記載のあることが認められるけれども、まず右供述内容を検討すると、被告代理人の質問に対しては「大倉さんが来た時点では正確に売ったのは書いていたが、まだ書いていなかったのもあったか覚えていません。」とあいまいな供述をしているばかりでなく、当初の尋問期日においてに、流質物の処分は、原則として市の立つ日に仲買人に頼んで売って貰っていたと言い、その前提での供述を繰り返していたのに、続行尋問期日においては、前言をひるがえし、原則として仲買人に店頭売りをしていたとの供述に変るなどその供述内容全般が信用性に乏しいこと、また証人小網利雄及び同月原宗俊の各証言によると、原告が本件更正処分等に対する異議及び審査請求を申立てた各時点において、それぞれ係官が調査のため原告宅を訪れ、あるいは電話で、関係書類の提示協力方を求めたのに対して、原告はいずれの場合にも、他の関係書類はもとより、右の質物台帳さえかたくなにその提示を拒んでいる事実が認められるところ、質物台帳の記載につき、右供述のとおりだとすれば、原告は、右各調査に応じて、進んで右台帳を提示し、その記載内容を検討させる態度をとりえたはずと考えられるのに、あえてこれをしなかったことは、かえって、右記載のなかったことをうかがわしめることなどの諸点に照らすと、原告の右供述は到底措信しがたく、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
そうすると、被告税務署長が、本件更正処分をなすにあたり、原告の協力が得られなかったのであるから、流質物の売上金額を推計による方法を用いて算出したことは真にやむを得なかったものと認められ、これによった本件更正処分は適法である。
(推計方法の合理性について)
本訴において、被告税務署長は、右推計方法として、原告主張にかかる流質物販売原価(貸付金総額)をもとに、業務内容がほぼ類似する同業者の流質物売上金額に対する差益金額の割合(差益率)の平均値を適用する方法を主張している。
証人月原宗俊の証言及びこれによりいずれも真正に成立したものと認められる乙第二ないし第四号証によると、同業者として選定されたのは、松山市の個人A、法人B、高松市の法人Cの三業者であるところ、右業者らは、いずれも青色申告をしているものであり、かつその営業立地条件、営業規模及び流質物販売方法に関し、原告とほぼ同一の条件にあるものと認められるので、右三業者の差益率の平均値をもとに、原告の流質物の売上金額を算定したことは合理性があるというべきであり、右推計方法によったことも適法である。
(流質物の売上金額)
流質物の販売原価(貸付金総額)が二〇一万九、三三五円であることは当事者間に争いがなく、また前示乙第二ないし第四号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一二号証並びに証人月原宗俊の証言によると、前記三業者の差益率の平均値は一九・六六パーセントであることが認められるので、これらの数値によって原告の流質物売上金額を求めると二五一万三、四八六円となる。
<省略>
(原告の主張について)
原告は、流質物の売上金額は一四二万五、八二〇円であって、被告税務署長の右算定は過大である旨主張し、甲第一、二号証の処分欄の記載並びに原告本人の供述はこれに符合する。
しかしながら、甲第一、二号証の処分欄の各記載は、いつ、どのような機会に行なわれたもか不明であり(この点に関する原告本人の供述の措信しがたいことは前記のとおりである。)多分に、処分時から相当の日時を経過した後に記載された疑いが強いが、そうだとすると、記憶にもとづいては到底不可能であって、何らかの原始書類から書き写したものと考えざるを得ないところ、右書類の存在につきこれを認めるに足る証拠はない。しかも、原告本人の供述によると、流質物の中には、一山幾らで売った物もあるというのであるから、それらの物については、個々の処分単価はわからないはずであるのに、甲第一、二号証には、すべての流質物にそれが克明に記載されている点からみて、右記載には明らかに真実にもとづかないものがあると断ぜざるを得ない。そもそも、右記載が正確だとすれば、流質物の圧倒的多数は販売原価を割って処分されたことになり、全体として当然に大幅な損失ということになるが、なるほど物によっては原価を割って処分されることのあり得ることは想像にかたくないけれども、この点に関する証人新居田康弘の証言によっても、全体として収益が期待できないというにとどまり、原告主張のような全面的かつ大幅な損失の生じることは、前示乙第二ないし第四号証、第一二号証、その方式及び趣旨によりいずれも公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第五、六号証並びに証人大倉武則、同小網利雄、同月原宗俊の各証言に照らし到底信用しがたい。
以上の理由により、甲第一、二号証の処分欄の各記載は、全体として正確な処分価格を記載したものかどうか極めて疑わしいと言えるので、これをもって、右主張を裏づける資料とはなしがたく他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(二) 経費
経費のうち、左記1並びに2の(1)(2)については当事者間に争いがなく、また同2の(3)については被告税務署長の自認するところである。
1 一般経費 二万、一九〇円
2 特別経費
(1) 建物減価償却費 一、四九三円
(2) 支払利子 一万〇、七二〇円
(3) ぞう品没収分 一万五、〇〇〇円
(三) まとめ
以上によると、原告の所得金額は、少なくとも、一三八万〇、四六六円となることが認められるので、その範囲内でなされた本件更正処分は適法である。
三、本件賦課決定処分の適否
原告の確定申告額並びに所得控除のうち、医療費控除以外の各項目については、別表二記載のとおり当事者間に争いがなく、医療費控除については、原告の確定申告中の医療費の金額が一万九、一八〇円であることは当事者間に争いがないので、右を前記認定の所得金額に対比すると、右医療費が控除の対象にならないことは明らかであるから、原告に対する過少申告加算税が三、六〇〇円となることは計算上明白であって、本件賦課決定処分も適法である。
四、本件裁決の適否
原告は、被告国税局長が、原告の審査請求を、原告がその調査に応じなかったという理由だけで棄却したと主張しているが、成立について争いない乙第一号証及び証人月原宗俊の証言によると、被告国税局長は、原告の審査請求に対して、係官による原告の所得金額の調査にもかかわらず、原告の協力が全く得られなかったので、やむなく原告の確定申告書と推計による方法を用いて原処分の当否を裁決したものであることが認められ、この点について何ら違法はない。また原告は、右審査にあたっては、原処分段階での資料だけにもとづいて、その当否を判断すべきだと主張しているが、右は独自の見解であって採用できない。
五、結語
よって、本訴各請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 水地巖 裁判官 滝口功 裁判官 伊東武是)
別表一
(昭和四一年分事業所得金額計算対比表)
<省略>
<省略>
別表二
(昭和四一年分所得税計算対比表)
<省略>
<省略>
注一 国税通則法(昭和四三年法律第九一号改正前のもの・以下同じ)第九〇条第一項により千円未満の端数は切り捨てた。
二 国税通則法第九一条第一項により百円未満の端数は切り捨てた。
三 国税通則法第九一条第四項により百円未満の端数は切り捨てた。
別表三
(流失物市売事例)
<省略>
(イ)の事例
<省略>
(ロ)の事例
<省略>
<省略>
(ロ)の事例
<省略>
(ハ)の事例
<省略>
(ニ)の事例
<省略>
(ホ)の事例
<省略>
(ヘ)の事例
<省略>
<省略>
(ト)の事例
<省略>